「 シルミド 」は時代に翻弄された囚人兵の生きざまを描いた戦争映画

どうも皆さまお世話になります、戦車、ガルパン狂の金剛です。今回もまたこのコラムで投稿させていただきます。今日紹介させていただきます映画は、韓国で実際に起きた韓国軍特殊部隊の反乱事件を基に作成された映画「シルミド」です。

実在した韓国軍特殊部隊「684部隊」その目的は…

物語は、主人公、カン・インチャオが、殺人未遂で死刑判決が下るシーンから始まります。暴力団構成員だったカンは、北朝鮮へ逃げたとされている父を持ち、父の罪から、ほぼ社会から見放され、そして暴力団構成員となっていました。

その父のせいで、殺人未遂ながらも死刑判決が出てしまいます。そこへ、一人の男が彼にささやき

「父親のせいでつぶされた人生を一からやり直すチャンス。今度は国のために剣をふるってみないか。」

この言葉に、カンは一つの決断をします。

そこは、韓国のある場所に浮かぶ無人島「シルミド」

ここに集められたのは、数十人の死刑囚、罪人。そして、彼らの前に軍服が置かれ、軍の隊長、チェ教育隊長が

「今のお前たちは死刑を待つ囚人。しかし、この軍服を着れば、名誉ある軍人に生まれ変わる。決断できたものから軍服を着よ。」

という言葉に、集められた囚人たちは全員が軍服を着たところで、チェ教官は、彼らが集められた理由を語ります。その驚くべき目的とは

「お前たちの目的はただ一つ。北へ潜入し金日成の首を取ることだ」

そう。つまり、彼らは、金日成暗殺を目的とした特殊部隊です。

囚人部隊が故の過酷な訓練

実は1968年という時代、劇中でも紹介されますが、北朝鮮の特殊部隊が当時の韓国大統領パク・チョンヒを襲撃する事件が起きています。事件は失敗に終わっていますが、この金日成暗殺部隊684部隊は韓国側の報復として創設されていることが分かります。

連日行われる訓練は、壮絶の一言で、訓練というよりは「拷問」に近い感覚で行われます。

その象徴は、ランニング中に、複数の教官から、木の棒で殴打されたり、また鉄条網の下の泥水の水たまりをくぐる訓練中に、針の痛々しい鉄条網を押し付けられたりと、苦痛の限りを尽くされます。

そして部隊は三つの班に分かれます。1つは主人公カンを班長とする部隊。2つ目は、カンに激しい対抗心を持つハン・サンピルを班長とした部隊。3つ目は。元暴力団構成員の統領も務めた経験がある、クンジェを班長とする部隊。

教官たちはそれぞれの部隊に対抗心を持たせるような訓練を課し、そして3つの部隊は、それぞれ友情も芽生え、死人がでるほどの激しい訓練に耐えた部隊は、もはや教官を超える戦闘力を有するまでになりました。

作戦中止と684部隊の抹殺指示

しかし、金日成襲撃決行日、北朝鮮へ向かった684部隊に、まさかの作戦中止命令が下ります。これは、当時アメリカを加えた南北融和政策が関係している物と思われますが、これにより部隊は存在を抹消されてしまう事になります。

そして、任務と目的を失った部隊はますます不満がたまり、更に政府による684部隊抹殺命令が出てしまいます。

「もし抹殺命令を聞かないなら、教育部隊もろとも政府が抹殺する」

政府からこのような通達をされたチェ教官は、対応に悩み、そして抹殺を決断した教育部隊に、684部隊が先手を取り反乱を起こします。そして、かつて自分たちの上司であった教育部隊を全滅させた684部隊は、ついに政府に対し反乱を起こすことを決意し、シルミドを脱出、そのまま首都ソウルへ進みます。

その道中、民間人を乗せたバスを乗っ取り、陸軍と警察の防衛線を突破した684部隊でしたが、途中力尽き、民間人を解放後、自爆して自決します。生き残った4人の隊員もその後処刑されます。

このように、最後に牙を向いた684部隊ですが、ちょっとネタバレになってしますが、劇中

「お前らが、仮に金日成の首を取ったとしても囚人は囚人。どうあがいても帰る場所はない」的なことを言われており、死を待つ死刑囚が、どうあがいても片道切符であるという事を突き付けられた時の感情は、なんとも言葉を失います。

この映画の見どころは、やはり厳しい中でも生まれる友情や感情の表現かと思います。対抗意識を植えられた各班長達が、最後には結束し、大統領官邸を目指すシーンは、クライマックスふさわしいかと思われます。

史実での囚人部隊

最後に、少し小ネタを挟んで終わりたいと思います。第二大戦中、罪人を中心とした部隊は、ドイツ、アメリカ、ソ連でも存在したとされています。

その中でもドイツでは、武装SS(親衛隊)の一つである「ディレルヴィンガーSS突撃旅団」が有名でしょう。

この部隊は、外国人捕虜や政治犯、一般犯罪人等から構成されたもので、大戦が長引くにつれ、兵士の人的枯渇が問題視される中、このような犯罪者や外国人捕虜を扱う部隊が拡大され、旅団レベルまで拡大されています。このドイツ軍部隊は、主にパルチザンを相手に戦っていますが、元々犯罪者を扱っていることから、略奪、暴行、虐殺行為が非常に目立ち、特にその名をはせてしまったのは、1944年の「ワルシャワ蜂起」で鎮圧にあたったのが、このような部隊で、特に上記のディレルヴィンガー旅団は、住民に対する犯罪行為を繰り返し、ドイツ国防軍からも正規の武装SSからも非難の対象となっています。

そしてソ連では、このような囚人部隊は「懲罰大隊」と呼ばれ、超大規模な懲罰大隊が存在し、大戦開始から終わりまで、その数は40万人に達するといわれています。
ソ連における懲罰大隊の構成は、その半分は、ドイツ軍の捕虜となり返還された兵士、次に政治犯、その次に、殺人犯などの重罪に問われた兵士だといわれています。

以上のような構成になっているため、ドイツの部隊同様、やはり犯罪行為が横行し、特に1945年8月のソ連満州侵攻時には、日本人居留民に対し真っ先に犯罪行為を行ったのは、最前線にいた懲罰大隊だったということが語られています。

ソ連では、特にスターリングラード戦での懲罰大隊の成果を見て、正式に軍の部隊としています。また、戦傷を負った場合、減刑や部隊復帰を認められたりしていましたが、例えば「反体制的人物」などのレッテルは生きたままだったとされています。

そして、この懲罰大隊から名誉回復と昇進を遂げた軍人の代表例は、ウラジミール・カルポフ親衛大佐。彼は冤罪で懲罰大隊に組み込まれましたが、昇進を重ね最終的には親衛大佐まで上り詰めています。

また、彼の半生をモデルにしたテレビドラマが2004頃にロシアで公開されたそうです。

このように、ただの囚人が、精鋭部隊と同等の力を持つようになったのは、現場の教育や、「目的を持たせる」というある種人間にとって最も重要な「教育」を行ったことが要因でないかと思います。

シルミドの内容は感動の「人間ドラマ」そして「現実に起きた事実」です。

是非、目を通して見てはいかがでしょうか。

文章:金剛たけし

タイトル シミルド
オリジナルタイトル:SILMIDO
監  督 康祐碩
出  演 アン・ソンギ、ソル・ギョング
製作・配給会社 東映
公式サイト 公式ウェブサイトの情報は見つかりませんでした。
公 開 日 2004年6月5日(日本)
上映時間 135分
著作権情報 すべての映像及び画像の著作権はすべて著作者に帰属します。

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