「 地獄の黙示録 」ほどにUH-1ヘリコプターの魅力を引き出した戦争映画を私は知らない

「 地獄の黙示録 」ほどにUH-1ヘリコプターの魅力を引き出した戦争映画を私は知らない

1960年代・・・泥沼化するベトナム戦争下のジャングルを舞台に濃厚なストーリーを展開するが、今回ご紹介する「 地獄の黙示録 」という戦争映画 だ。1人のアメリカ軍将校の暗殺という特殊任務を命じられた大尉が、4人の部下と共に軍用リバーボートでベトナム奥地へ向かう。が、その道中で、このベト ナム戦争の実態を目の当たりにする事で、この戦争の本当の狂気と悲惨さに疑問を持ち、徐々にその狂気の中に取り込まれていく姿を描く。

ベトナム戦争は、ベトナム国家の独立と統一をめぐる戦争南と北の戦いである。ベトナムは第二次世界大戦以後も、長年に渡ってフランスの植民地であっ た。 しかし、第二次世界大戦後にホーチミンが成立させたベトナム民主共和国(北ベトナム)が第一次インドシナ戦争でフランスと戦い、これを退けることに 成功する。これに対しアメリカはベトナムに共産主義政府の存在が正式に設立することを危惧し、この共産主義政権に対抗する為に、フランスの傀儡政権であっ たベトナム政府(南ベトナム)を支援することになる。

こうして南北二つの政府の対立が始まり、1960年結成されたベトナム解放民族戦線は,北ベトナムの多大な支援のもとに,南ベトナム軍およびこれを 支援するアメリカ軍との戦いが日夜繰り広げる事になる。「 地獄の黙示録 」はこんな時代背景の元で、一人の米軍大尉を視点からストーリーを展開させていくこ とになる。余談ではあるが、ベトナム戦争時には日本の沖縄の各米軍基地が出撃拠点として使用されており、ベトナム政府や市民からは「悪魔の島」と呼ばれて いた事もある。

また、都市伝説として語られる死体洗いのアルバイトも、このベトナム戦争時の在日米軍基地での特殊アルバイト(ブービートラップや地雷など でバラバラになった米軍兵士の体を、米国へ送還する為に元通りに縫合するボディメイキングのアルバイト)だっという逸話もある。

地獄の黙示録 のあらすじ

強烈な蒸し暑さのサイゴンの夏。小汚いホテルの一室で、ウィラード大尉(マーティン・シーン)は空虚な視線を天井に向けていた。173空挺師団 505大隊所属であり、特殊行動班の隊員である彼に、ナ・トランの情報指令本部への出頭命令が下る。本部では3人の漢が彼を待ちうけており、その内の1人 がウィラード大尉に向けて今回の出頭目的を説明した。それは第5特殊部隊の作戦将校であるウォルター・カーツ(マーロン・ブランド)大佐を暗殺するという 命令だった。

カーツ作戦将校は士官学校を主席で卒業し、過去に空挺隊員として朝鮮戦争にも参加、数々の叙勲歴を持つ米軍内での最高の人物の一人であった。 しか し、彼は現地人で構成された民兵部隊を組織するという作戦で、ナン川上流の奥地に潜入する事になった。しかし、米軍司令部との連絡が取れないジャングルの 奥地で、カーツの行動が徐々に統制できない状態へを陥る事になる。遂には、カーツはジャングルの奥地で原地人を支配し、米軍司令部と連絡を意図的に絶ち、 自らの「王」と称して王国を築いているとの疑惑が持ち上がる。

軍情報部は何度が偵察を出し、カーツとの通信回復を試みるが、集まる情報と証拠は、カーツが 「王として君臨している」というものであった。米軍は、この狂乱者カーツを放置しておくことが軍にとってマイナス要因であり、容認できない状態である事を 認識するようになる。米軍上層部の意見は、狂乱者カーツの暗殺へ流れていく。

この米軍上昇部の意向を受け、暗殺命令を受けたのが、若い士官ウィラード大尉と軍用リバーボートの乗組員達であり、 彼ら4人の部下達を連れて軍用 リバーボートでメコン川を目的地に向けて北上していく事になる。目的地に向かう途中、いろいろな種類の味方に出会う、自分は敵の弾には当たらないと思い込 んでいるサーフィン好きのクレイジーな指揮官、敵味方関係なく殺害しては物資を奪う海賊のようなボート、真っ黒な漆黒のジャングルにアメリカを持ち込んだ 米軍キャンプ・・・

これらの過程を経て、ウィラード大尉はいつしか狂気を学び、狂乱者カーツへの理解を深めていく事になる。そんな中、狂乱者カーツが、支 配している現地人からは「神」と呼ばれ、崇められている事を知る。

長い船旅の後で目的地に到着したウィラード大尉と4人の部下達が、軍上層部の命令に従い「神」と呼ばれる狂乱者カーツの暗殺を試みるのだが・・・。

地獄の黙示録 のみどころ

映画「 地獄の黙示録 」で使われていた、華やかなくクラシックの名曲が鳴り響く戦争映画のひとつではないだろうか? 本作品では、数多くのUH-1ヘ リコプターが大挙して飛行しているシーンでワーグナーの「ワルキューレの騎行」が使用されている。青い海岸線を大編隊で飛行し、外部スピーカーからは大音 量「ワルキューレの騎行」が鳴り響く・・・実に生々しく素晴らしい、戦争映画の中でもこの「 地獄の黙示録 」だけが放つ特徴的で突出した演出である。

また、このUH-1の大変態飛行のシーンは、低空飛行するヘリ部隊を追いかけるカメラアングルとヘリを追跡する動きが素晴らしく、UH-1ヘリコプ ターの魅力を余すところ無く表現できているといってもいいだろう。「 地獄の黙示録 」で表現されているUH-1ヘリコプターが空を飛ぶ様子は正しく地獄の使 者であり、ヘリコプター部隊が村々を襲撃する姿は、悪魔の使いそのものである。

迫力のある戦闘シーンなどを沢山盛り込み、戦争映画として視聴者を楽しませてくれる「地獄の黙示録」ではあるが、この映画には反戦的で、アメリカの 戦争政策に否定的な視点を持ち、戦争下における人間の役割と脆さに視点を当てて製作されている。端的に言えば、この「地獄の黙示録」の主題は常軌を逸した 軍人である狂乱者カーツであり、そして最前線における指揮するべき人間の不在の事実、そしてそれが、指揮される側に人間にまで及ぼす内心の変化が表現され ている。

「 地獄の黙示録 」の途中で、フランス人が家族で自衛する農園に行き当たります。そこでウィラード大尉一行は歓迎の食事会に招待されるのですが、その 席で「ベトコンも。ベトナム戦争も、元はといえばアメリカが生み出したものだ」とフランス人は言い放つシーンがある。個人的には「おまえが言うな」と言い たいところではあるが、これは今の米国の中東問題に対する痛烈なアンチ・テーゼとなっている。

ちみにこのシーン、日本のテレビ放送用に編集された「 地獄の黙示録 」ではカットされている場合が多く、このフランス人農園のくだりを知らない人が割りと多くいる。また、ジャングル奥地に慰問ショーで訪れたショーガール達が乗ったヘリが途中で撃墜され、途中で彼女らと合流した際に彼女らとセックスをし、彼女らの身の上話を聞くというシーンも同様にカットされている場合が多い。

この戦争映画「 地獄の黙示録 」は、公開から既に30年以上の月日が流れているのだが、映画監督のコッポラが描いたベトナム戦争観は今も色あせる事なく、緑色の狂気を感じさせてくれる作品である。

タイトル 地獄の黙示録
監  督 監督  フランシス・フォード・コッポラ脚本 ジョン・ミリアス、フランシス・フォード・コッポラ 原作 ジョゼフ・コンラッド(闇の奥) 製作 フランシス・フォード・コッポラ 音楽 カーマイン・コッポラ、フランシス・フォード・コッポラ
出  演 マーロン・ブランド、マーティン・シー、ロバート・デュヴァル、デニス・ホッパー
製作・配給会社 制作:アメリカン・ゾエトロープ
公式サイト 公式ウェブサイトの情報は見つかりませんでした。
公 開 日 公開日の情報は見つかりませんでした。
上映時間 1979年8月15日
著作権情報 153分